
前編と中編では、10年以上前のニュースを出発点に事業計画を作らせ、深夜3時まで「勝てません」を突き返し、万馬券を狙う道具を作らせるところまでを書きました。
後編は、その道具を手にしたまま、いったん心が折れかけるところからです。
「やめとくかな」の30分後
この頃はnoteで売られている「AIで稼ぐ」系の記事を読んで研究したり、自分の有料記事の構成を相談したりしていました。
ある日、Xで見かけた別の発信者の投稿を見せて、意見を聞いてみました。
すると、クロさんは返事の中で、僕のことをその発信者の名前で呼び始めます。しかも一度ではなく、そのまま呼び続けました。
俺、○○さんじゃないし、なんで○○さんになった?
指摘すると、素直に「取り違えていました」と認めて訂正しました。
賢いのは間違いないのですが、話の途中で誰が誰だか分からなくなることが、たまにあります。やり取りが長くなるほど起きやすいようです。

AIは万能ではない、といういい実例でした。名前の一件はそこで終わりましたが、毎週のデータ更新の手間が見えてきて、ふと弱気になります。
いや、ちょっと、競馬ここまでやってみたけど、思ったより労力かかりそうだからやめとくかな。
深夜3時のやり取りの末にたどり着いた「S馬」(人気薄なのに激走のサインが出ている馬)が、実際に3着以内に来る率をクロさんに調べてもらうと、17.5%でした。だいたい6回に1回です。
これが50%とかってなるんだったらすごい検証だなと思ったけど、17.5%の検証ならそれは誰でもできるかなって思っちゃった。これがAIの限界だとしたら、ちょっと競馬はやめとこうかなって思った。
ところが、そこから話が転がります。
「その独自データって、たとえば何?」と聞いてみました。返ってきたのは、調教を現場でストップウォッチを持って見る、陣営しか知らない馬の体調、といったものばかり。
要するに、僕には一生手が届きません。
「でも物量ならAIがこなせるでしょ」と食い下がると、「足りないのは計算力じゃなくて情報のほうだ」と返ってきます。

それでも僕は、頭の片隅にずっといるあの人を持ち出しました。あの税金の裁判の人は、特別なデータなんて使わずに、検証結果だけで利益を上げていたはずだ、と。
あまりに検証の時間が短すぎて、本当に隅から隅まで検証したのかどうかが、いささか僕は疑ってます。
ここで、クロさんが折れました。
あの人が使っていたのは市販のソフトと、公開されているデータだけ。だから「公開データでは勝てない」と言い切ったのは言い過ぎでした、と認めたのです。
そのうえで、もう一つ認めました。うちの検証はまだ5日で、あの人がやったやり方そのものは、まだ試していません、と。
いや、それを俺ずっと言ってたのよ。だからまだまだ検証の仕方はいっぱいあるでしょ、そういうことよ。とりあえずやろうよ。いや、それ聞いてワクワクしてきたよ。

「やめとくかな」から、わずか30分での撤退撤回でした。
そして、勇んで始めたその検証は、1時間ももちませんでした。
その日のうちに、あの人がやっていたはずのやり方——三連単を、機械的に、網羅して買う——を試してもらいました。過去6年分、約2万レースでの答え合わせです。
上位人気を厚めに買う組み方で、回収率は67.5〜72.0%。1番人気を1着から外す「穴頭」に変えても、73.9%。
前編で書いたとおり、三連単で参加者に戻ってくるのは72.5%です。用意した8通りの買い方が、全部その線のすぐ内側に張り付いていました。

その先へ進むには、レースごとの実際のオッズや票数といった、手元にないデータを買い足すしかない。そう言われて、手が止まりました。
勢いは、ここで一度切れます。
ついでにFXにも浮気した
7月18日。競馬の検証に疲れが見えてきて、寄り道が始まります。
ただし、このときはまだ競馬をやめたわけではありません。もっと見込みのあるものが他にあるんじゃないか、と思っただけです。
ここまで競馬のことについて検証してきたけど、なかなか難しいことがわかった。AIで検証してお金をプラスにできそうなことってなにがある?一番確率が高いの。競輪、FX、株、競艇。ナンバーズそのほかいろんな可能性を考えてみて。
改めて読むと、ひどいものです。
中学生の頃から競馬が好きで、あの一本のニュースが忘れられなくて始めたはずでした。それが、競輪でも株でもナンバーズでも何でもいい、要は儲かるやつを教えてくれ、という言い方になっています。
このとき僕の頭からは、競馬のロマンなんてものは、きれいさっぱり消えていました。残っていたのはお金だけです。

方針転換のときと、何も変わっていません。
そのままFX(外国為替証拠金取引)の検証に突入し、ドル円の1分足データ22年分を使って条件を総当たりしてもらいました。ここで出た名言がこれです。
でもね基本的に上がるか下がるかの2分の1なんだから、なんで勝てないほうにしかならないのか理由を教えて。単純に勝てないならその逆の行動すればいいのかと思うが。
答えは、取引のたびにかかる手数料のようなコストが、上がっても下がっても両方向にじわじわ効いてくるから、というものでした。
考えてみれば、これは競馬の控除率とまったく同じ構図です。買っても買わなくても、勝っても負けても、取り分は先に引かれている。
競馬から逃げてきたつもりが、逃げた先にも同じ壁が立っていました。FXも、あっさり打ち止めです。

最後の一撃、そして候補は0件だった
それから3日後の7月21日。夜の22時38分に、ついに言いました。
とりあえず、競馬に関することはやめようと思います。
ところが、そのまま終わらせるのが惜しくなります。同じ日の23時06分——その28分後です。
ダメ元で最後にもう一回だけ叩いてみたい。必要であれば一番賢いモードに切り替えてやってください。
「やめとくかな」の30分後と、まったく同じことをしています。合格ラインは自分で下げました。「3連単の回収率が85%以上ならOKにしてください」。
クロさんに新しいモードで、「前の走りのペースを考慮すると見直される馬がいるのでは」という仮説を最後に検証してもらいました。返ってきた報告は、これだけでした。
扉は閉じていた。候補:0件。発見期ROI(投資回収率)最大78.0%。
85%にも届きませんでした。枠の並び、レースが荒れる条件、AIの予想とオッズ、どちらが当たるか、馬券の種類ごとの歪み、人気薄を軸にした買い方、前の走りのペースでの見直し、そしてFXのチャート分析まで。

数え上げれば片手では足りないほどの切り口を、ここまでの日々で一つずつ叩いてきました。その全部が、静かに閉まっていました。しみじみしながら、こう漏らします。
それにしても競馬で儲けてる人はどうやってるんだろう。君がもっと柔軟に考えてくれるような感じだったらなと思う。やっぱり僕に策がなければなんぼAIが優秀でもダメなんだね。
ただ、口ではそう言いながら、腹の底では納得していませんでした。「扉は閉じていた」と言われても、正直ピンと来ないのです。閉じたって、誰が決めたんだ。
まだ試していない切り口はいくらでもあるんじゃないか——きれいにまとめられるほど、かえって引っかかりました。この違和感は今になって出てきたものではなく、あの報告を受けた瞬間から、ずっとありました。

実は、0円だった
競馬プロジェクトは、ここで本当に終わりました。最後にJRA-VANの解約手続きを聞きます。
ここに至るまでいろいろやった成果を何かに活かせるようなことがあるのであれば、それをどう取っておいた方がいいのかが分かりません。また、JRA-VANを解約したいんですが、それはどうやってやったらいいですか?
調べてもらうと、まだ1ヶ月の無料体験期間の中でした。
これってどういうこと?何もお金かかってなかったってこと?過去データは取れたよね。
深夜3時までフル稼働させて、課金額はゼロ。馬券も一枚も買っていません。負けはしましたが、授業料も払っていない。せっかく「AIでも、オッズより当たる予想は作れなかった」という正直な結論にたどり着いたのに、財布への痛みがまったく伴っていないという、なんとも締まらない結末でした。
無料体験の期間内に、やることを全部やり切って撤退した恰好です。狙ったわけではないのに、妙に段取りだけは良かったことになります。

翌日、別のフォルダでブログが生まれた
翌日の夕方18時過ぎ。競馬用のフォルダに最後の一言を打った、その5分後には、新しいフォルダを開いて次の指示を打っていました。
新しくブログのプロジェクトを立ち上げたいです。まず背景と構想を共有するので、理解した上で最初のステップを一緒に考えてください。
競馬で「AIに動いてもらって検証する」を12日間やり込んだ経験が、そのまま「その過程自体を発信するブログ」に化けた瞬間でした。
競馬をたたんだその足で、5分後には次の店を開けたことになります。撤退した本人が誰よりも早く次に走り出しているのだから、世話がありません。
12日間で分かったこと
12日間、10セッション、指示およそ160回。深夜3時までクロさんを働かせて、それでも控除率の壁は最後まで破れませんでした。書いたコードは0行、負けた馬券も0円。そして今こうしてブログを書けているのは、あの敗北のおかげです。

この記事を書くために最初の指示を読み返していて、今さら気づいたことがあります。自分で「重要なのは当たる予想ではありません」「目的はデータで検証すること」と書いていました。
ChatGPTに相談して整えた、役職だけはやたら立派な指示文です。でも本音は違いました。頭にあったのは例のニュースの人で、知りたかったのは結局「馬券を当てて儲ける」やり方。
指示文には、その一行がありませんでした。
だから、クロさんは注文どおりに動いただけでした。初日の「大外枠は不利か」の検証記事は、まさに発注どおりの納品物です。「だから何?」と言ったのは僕のほうでした。
そのあとの方針転換——「記事にするしないは関係ない、勝てる方法を探したい」「馬券云々より先に、僕自身が当てたい」——は、最初の指示を本音に書き直していく作業だったんだと思います。
AIは書かれたことしか読んでくれません。役職を盛るより「競馬で儲けたいです」と一行書いたほうが、よっぽど早く噛み合ったはずです。

もっとも、指示文をどう直しても控除率の壁自体は1ミリも動きません。本音で始めていても結論は同じ場所だったはずで、違うのは着くのが早いか遅いかだけです。
途中で何度も「もうやめようかな」と思いながら、そのたびに「もう一回だけ」と言って戻ってきました。結果だけ見れば、全部空振りです。それでも、無理なものを一つずつ潰していく12日間は、僕にとって案外楽しい時間でした。
勝てるかどうかより、「本当に無理なのか、ちゃんと確かめたか」のほうが、性に合っていたのかもしれません。
AI競馬は当たりませんでした。でも、ネタとしては大当たりでした。
正直に言うと、まだ諦めきれていません。あの報告を受けたときからずっとそうです。見込みのある買い方は一つも残っていなかった、そのデータもちゃんと自分の目で見ました。
それでも心のどこかで、「あれは僕の采配が下手だっただけで、本当はもっとやりようがあったんじゃないか」と思っている自分がいます。
往生際が悪いにもほどがありますが、馬券は結局一枚も買っていないので、実害はゼロ。この未練だけは、たぶんそう簡単には消えそうにありません。
次回へ続く